あの日東北で大震災が起き、原発の影響で人がいなくなった街に残された、動物たちのお話。
そしてそれらを救おうと、自らの身の危険をも省みずに、被災地に乗り込んで行った人たちのお話です。
自衛隊よりも先に到着し、大混乱の中、活動は始まります。
こんにちは、ユズリハです。
今回は、広島県に本拠地を置き、栃木県内にも拠点がある、NPO法人 犬猫みなしご救援隊著「鼓動 感じて欲しい小さな命の重み。」という本のご紹介と、それを読んだ感想です。
2011年3月11日の東日本大震災では、東京でもこれまでにないほどに揺れ、恐怖を感じました。
でも、テレビに流れていた被災地の映像は・・・あまりに信じがたく、正直に言えば、当時私は素直に受け入れることができていませんでした。
この本を手に取ったのは、それからずいぶん経ってからのことです。
この中では「被災者が動物である」という部分が良くも悪くも少しだけクッションになっていて、改めてあの時あの場所で何が起きていたのかを知ることができました。
写真が多くて読みやすいですが、本の中には、ケガを負っていたり、もう天国にいると思われる動物の写真もあります。
少しショッキングだと感じるものもあるかもしれません。
(この記事には載せていません)
できるなら前頭連れて帰りたい!
以下は、オビに書かれている内容です。
4月20日、日本政府は福島第一原発から半径20キロ圏内を【警戒区域】に指定すると発表した。放浪している犬は、たとえ首輪をしていても保護できるが、つながれたままの犬は、飼い主からの依頼が無い限り、保護できない。最後の二日間、私たちは死に物狂いで、犬や猫を20キロ圏外に連れだした。つながれていた子には、「必ず、必ず、迎えに来るから」と泣きながら、頭を撫でて別れた。どの子も、ロープが届く限りのところまで来て、立ち去る私たちに向かって、鳴き続けた。
この時の、あの鳴き声と、あの悔しさを、私は一生忘れない。
ここからは、本の内容に私の感想を交えて書いていきます。
前半
東日本大震災が起きた直後の3月13日、まだ情報が何もない中、犬猫みなしご救援隊がまずは仙台へと向かうところから、ストーリーは始まります。
「犬猫どころではない」と一蹴されるか追い返されるのではと覚悟して臨んだものの、「たとえ犬や猫であっても助けてやってほしい」と受け入れられます。
しかしその後は拠点を福島に移し、まだ自衛隊も入らぬ被災地で目にした光景が描かれます。
はじめは1日単位で、その後季節が移り行く中での記録へと変わっていきます。
春。放射能汚染が心配される福島にも美しい季節が訪れ、愛でる人のいない桜が咲きほこる。
一見、写真は花々と共に写るかわいらしい犬のように見えますが、それらは飼い主を失い、放浪しながら必死に食べものを探す犬の姿です。
夏。暑さ、水不足、そしてフィラリアなどの病気との闘い。
少ない文章の中にも、人がいなくなったことにより街がどんどん変わっていく様子がうかがえます。
人間がケアして整えていた機能や景色が、だんだん崩壊していきます。
秋。震災から半年。
東北の秋は短く、やがて訪れる冬に備え、著者に焦りが見え始める。
しかし写真に写る犬や猫や牛は、人がいなくなって荒れ果てた街を自由に闊歩しています。
人だけがいなくなり荒廃した街の、不思議な光景。
冬。動物愛護団体に対し、20キロ圏内への立ち入り許可がやっと下りる。
警戒区域に指定され閉ざされていた4月22日以来、再び危険地域の中心へ足を踏み入れることを「まるで初恋の人にでも会いに行くような気分で」と表現する著者。
ただただ動物を救いたいという、純粋な思いが伝わってくる。
オビに書かれていた、すがり付いてくる動物を置いてきたという悔しさと、必ず戻って来るという約束を、やっと晴らせるときが訪れます。
中盤
1年をかけて1300匹以上の動物たちを救い出した中の、個別のエピソードが語られます。
写真の被写体も、動物だけだったものから、人間が現れるようになります。
おびえる動物たちを保護した後に飼い主の元に引き渡されるエピソードなど、読んでいるこちらの緊張も少し和らぐ。
ただ、動物たちはみなボロボロで、やせ細っていて、ここまで生き残ることがどれだけ過酷だったかを物語っています。
痛々しい写真が多く、ついこの前まで人間が世話をしていたとは思えない姿。
そのような状況下で、動物たちもまた、極度のストレス状態にあります。
著者は動物たちを捕獲する際、基本的には無理やり捕まえるのではなく、あくまで自然に、動物の方から来てもらおうという方針。
そのため1匹保護するまでに、まずはエサを与えて信頼関係を作るところから始めています。
放射能の影響で活動時間が限られる中、人間たちにも余裕がなくなりそうですが、手荒なことはなるべくしたくない、動物たちの心を優先したいという優しさが伝わってきます。
後半
犬、猫、その他置き去りにされた動物たちの保護方法やそれらへの思い、被災地での治療やTNR(捕まえて・不妊手術を施して・元の安全な場所に戻す)について。
そして保護された動物たちが安心して過ごすことができる、新たな拠点づくりが始まる。
それまでに関わったボランティアや里親と幸せそうに写る動物たちの写真があふれます。
元の飼い主のところに帰れれば一番良いのですが、総勢620名もの一時預かりや里親を引き受けた方々がいたそうです。
人も動物も、みんな幸せになってほしい。
著者について
はじめに書いた通り、表記上はNPO法人 犬猫みなしご救援隊となっていますが、実際に文章を書いているのは、代表の中谷百里さんのようです。
私はこの方とこの団体の普段の活動を、最初はテレビの動物番組を見て知り、興味を持ちました。
今回ご紹介したこの本の冒頭は、著者が過去の震災で、動物を助けに行かなかった後悔が語られるところから始まります。
広島出身の著者は、「阪神淡路大震災のときは自分の身の安全を考え、すぐに行動を起こせなかった。その後、新潟中越沖地震でも自分に都合のいい言い訳をして行かなかった」と、振り返ります。
東日本大震災が起きたとき著者は50歳に近づいていて、病気も患っていたことから、残りの人生もう後悔はしたくないという思いだけで、危険な地へ自ら足を踏み入れます。
震災直後、まだ情報が錯綜する中で、最初に活動を始めた仙台では、「福島は原発が爆発したので黒い雨が降る」と噂されていたそうです。
しかしそれを聞いてもなお、もっと自分たちを必要としてくれている場所を目指そうと、福島行きを決めます。
12月、「まるで初恋の人にでも会いに行くような気分でドキドキしながら」警戒区域である20キロ圏内へ入り、「思いっきり深呼吸した」とあります。
被爆地広島で生まれ育った境遇でありながら、まさに今、似たような状況にある地へそのような気持ちで乗り込んでいく、著者の使命感と動物への愛が伝わってきます。
著者は過去には動物たちの供養がしたいと仏教に帰依し、また現在は動物病院の看護師としても働いているそうです。
また、団体としては、2012年に平成24年度社会貢献者表彰として「東日本大震災における貢献者表彰」を受賞しています。
まとめ
今回この記事を書くにあたり、改めて本を読みなおしました。
訳もわからず突然飼い主がいなくなり、荒れ果てていく場所で飢えや病気と闘いながら生き、そして死んでいった動物たちは何を思っただろうと考えると、毎回涙が出てきます。
もしも運よく再会できたとして、家族の一員として過ごしていた犬や猫が、変わり果てた姿になっていたら・・・過去に自分が飼っていた犬がもしも、と考えると、心がつぶされるような苦しさを感じます。
でも、被災地では、それが現実に起きていたことです。
この本には、災害が起きても止まることのない自然の営みの強さ、その変化に翻弄される動物たち、それをなんとか助けようとする人間の優しさが描かれています。
私としては著者の生きざま、動物への愛、困難な中でも行動を起こそうとする情熱にとても惹かれました。
過去の後悔という苦しみから抜け出すために、何も恐れずに、本当に自分がやりたかったことに向かって身を挺して突き進んでいきます。
本のタイトル「鼓動 感じて欲しい小さな命の重み。」にある通り、ここに詰まっているのは、すべての命が持つ儚さと力強さです。
冒頭でもお伝えした通り、写真が多く非常に読みやすい構成になっていて、文章自体は中学生でも理解できるレベルです。
難しい内容は書かれていませんが、ケガや病気をしていたり、中には命を全うしたと思われる動物の写真もあります。
震災が発生してしばらく私は目を背けていたけれど、これがそのとき起きていた真実の一部なのだと、やっと直視することができた気がします。
是非たくさんの方に読んでいただきたいです。
【鼓動 感じて欲しい小さな命の重み。】
【犬と猫の向こう側】
フジテレビ『ザ・ノンフィクション』で紹介された内容がさらに掘り下げられて書籍化されています。
オビは女優・石田ゆり子さんによるものです。
今週のお題「読書感想文」
でした。